天使の手袋
最終話「満月の夜」
それから随分と月日が経ちました。
男性はあの半月の日に、
どうして彼女の元へ行かなかったのか。
ずっと後悔の日々が続いていました。
気がつくと目から一滴二滴
夕暮れの色を染めるように
涙が地上に落ちてゆきました。
ふと、今日は満月だなと
窓から空を見上げたある日
「あの天使・・・」
そう思い、今度は迷わずあの場所へ行きました。
最初天使と出会った
「川の橋の上」に。
すると、なんとあの時の天使が座っていました。
羽が傷んでいて飛べない天使が。
男性はすぐ羽の代わりになって、天使を抱き寄せました。
「これで少し温かくなるよ。」
天使は言いました。
「・・・私に見覚えはありませんか?」
男性は言いました。
「自分の羽で手袋をくれた天使だよね?
ごめんね、僕のせいでこんなに寒い思いを。」
天使は小さく首を左右に振り、言いました。
「・・・もっと前から私とあなたは出会っています。」
男性は思い返しました。
「天使・・・」
そこで男性ははっと気がつきました。
小さい頃、自分が石を投げいじめた天使のことを。
「ごめん、本当にごめんよ、あの時の
三日月の時の天使だよね?
でもなぜここに・・・」
天使は少しずつゆっくりと言いました。
「私はずっとあの日以来、
月夜からあなたを見守っていました。
羽が傷ついたら月が治してくれ、
人間達に羽を落としても
月が新しい羽を与えてくれました。
そして、たった一度だけ天使は別の奇跡
を起こせることを知りました。
自分を傷つけた人間の心が成長し、
愛を知ることによって
私は天使ではなく、
人間として生きる
選択肢があるということを。」
その瞬間、天使は美しい人間の女性の姿
に変わりました。
「私の名前は、天界では
四大天使『火の天使』のミカエルでした。
これからは人間としてあなたを愛してもいいですか?」
男性は微笑んで言いました。
「こんなに心も美しい女性を断る男なんてどこにいるの?
ミカエル、素敵な名前だね。
でも、人間界に来るんだったら
僕のミカになってくれないかな。
今度は僕が君を
羽の代わりに
心から温かく包みこむよ。」
「・・・ありがとう」
二人は今日のクリスマスを
罪と罰、許しと長い年月の間
隠れて見守ってきた愛に満ちて、
一緒に手を繋いで見上げるのです。
「満月の夜を」
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