天使の手袋
第一話:半月の夜
ある真横から光が照らされる半月の夜のこと。
都会の雑踏の中で、道端に凍えそうな程
薄着をしている少女が震えながら歩いていました。
心優しい男性は、少女に
「どうして君はそんなに薄着を・・・?寒いでしょう?」
と聞いてみると、少女は小声で言いました。
「・・・お母さんとケンカして」
男性はすぐ少女に自分のコートを代わりに着せて
「これで少し暖かくなるね、寒そうだから
道端ですれ違ったおじさんにもらったと、お母さんに話してごらん。
きっと何も言わずぎゅっと抱きしめてくれるよ」
そう言い残し、別の場所に移動しました。
すると、今度は別の少女が、よく見ると小さな手が
真っ赤なしもやけになりながらビラを配っています。
男性は真っ先にビラを受取り、
少女の手を握り締め言いました。
「どうしてそんなに君の手は冷たいの・・・」
少女はすぐに言いました。
「お父さんの小料理屋のお店のビラを配っていたら・・・」
男性は
「ごめんね気がつかなくって。
ビラを配って家族を助けていたんだね。
君の手を見たら心配になって・・・
もしよければ僕の手袋を使ってみて。
きっと、何でこんな小さな女の子が
大きな男の手袋してるのかな?
って気になって、
きっとみんな思わずビラを受け取っちゃうよ」
そう言い残し、自分の手袋を少女に渡しました。
「コートもないし、手袋もなくなったなあ。
というか、俺、自分に“何も”ない気がするなあ・・・」
男性の心は気がつくと虚無感に苛まれていたのです。
そして1人都会の雑踏から少し離れ、
「川の橋の上」から
半月の夜空をふと見上げました。
すると、天使が月夜から舞い降りてきました。
「大丈夫、他の人間には見えないから
秘密ね」
シー 人差し指を1本立てながら天使は言いました。
「私の羽をせめて手袋に使ってください。
けっこう温かいですよ」
そう言い残し、天使は自分の羽を手袋に変えて月夜に
舞い戻りました。
男性の手は一瞬にして暖かい羽毛の手袋に包まれました。
「・・・そうだ、俺、やり残していることあったなあ。
今日こそ自分の気持ちを伝えに、
彼女のところへ行こう」
男性の手は天使が届けた手袋で心も温まっただけでなく
見失っていた現実と勇気も取り戻したのでした。
天使の手袋 第二話 「新月の夜」につづく
※2016年12月7日 上弦の月(半月)
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